リヨンの壁画(トロンプルイユ)6選|世界屈指のだまし絵アートを歩く

リヨンの街を歩いていると、ふと「あれ、この窓は本物?」と二度見してしまう瞬間があります。実はそれ、絵なのです。リヨンには約200枚ものフレスコ画(壁画)があり、そのほとんどが本物の建物と見分けがつかないほど精巧なトロンプルイユ(だまし絵)技法で描かれています。ヨーロッパ最大級の壁画から、映画の父リュミエール兄弟へのオマージュまで、リヨンならではの「壁の美術館」を巡ってみましょう。

ミュール・デ・カニュ——ヨーロッパ最大級のトロンプルイユを夜間ライトアップで望む
写真:CitéCréation(公式)

この記事を書いた人

リヨン出身のフランス人。日本在住。日本人旅行者向けに、実際の現地情報をわかりやすく紹介しています。

目次

リヨンが「壁画の都」と呼ばれる理由

すべての始まりは1978年、リヨンの美術学校のあり方に反発した学生たちが結成した「ポピュラール(Popul'Art)」というグループでした。彼らは「エリート主義的な美術教育ではなく、街に出て、人々のための芸術を作りたい」という思いから活動を開始し、1982年に郊外ウーランで最初の大型壁画を制作。1983年には正式に協同組合「シテ・ド・ラ・クレアシオン」を設立し、1987年に労働者協同組合(SCOP)として現在の名前シテ・クレアシオン(CitéCréation)に改称しました。

彼らの技法の核心は、メキシコ研修旅行で学んだ壁画運動(ディエゴ・リベラら)の影響を受けたトロンプルイユ(だまし絵)です。単なる装飾ではなく、住民への聞き取りを重ねながら、その建物・街区の歴史や記憶をテーマに落とし込むという独自の制作プロセスも特徴で、男女比を対等に保つという組合の理念も設立当初から変わっていません。1987年の「ミュール・デ・カニュ」を皮切りに、現在までに世界40カ国以上で650以上のフレスコ画を手がける、この分野の世界的リーダーへと成長しました。

本物の窓と描かれた窓が混在する、CitéCréationのだまし絵技法の一例
写真:offbeatfrance.com

リヨン市内だけでも約200枚のフレスコ画があると言われていますが、その中でも「これは外せない」という代表作を6つ紹介します。

① フレスク・デ・リヨネ——リヨンを作った30人の顔

リヨンで最も有名な壁画がこちらです。ソーヌ川沿いの建物の壁一面に、古代の皇帝クラウディウスから、シェフのポール・ボキューズ、作家サン=テグジュペリ、映画を発明したリュミエール兄弟まで、リヨンゆかりの約30人が、窓やバルコニーから顔を出す姿で描かれています。低層階には実在する店舗とつながる仕掛けもあり、「本物の建物の続きに絵が始まっている」感覚を味わえる、トロンプルイユの真骨頂と言える作品です。

フレスク・デ・リヨネ——建物の壁一面に描かれたリヨンの偉人たちのだまし絵
写真:offbeatfrance.com

フレスク・デ・リヨネ(La Fresque des Lyonnais)
住所:49 quai Saint-Vincent / 2 rue de la Martinière, 69001 Lyon(角地)
最寄り:メトロA・C線「Hôtel de Ville」駅
制作:CitéCréation(1995年、800㎡)
モデル:クラウディウス帝、アンペール、リュミエール兄弟、サン=テグジュペリ、ポール・ボキューズなど約30人

② ミュール・デ・カニュ——ヨーロッパ最大級のだまし絵

ミュール・デ・カニュ——クロワ・ルースの街並みを描いたヨーロッパ最大級のだまし絵
写真:Allie Caulfield(CC BY 2.0)/offbeatfrance.com

CitéCréation最初の記念碑的作品であり、今なおヨーロッパ最大級のトロンプルイユとされるのが、クロワ・ルースの丘にある「ミュール・デ・カニュ」です。絹織物職人「カニュ」が暮らした当時の街並み——急な階段、洗濯物が干されたバルコニー、小さな商店——が、1200㎡の壁いっぱいに描かれています。1987年の完成以来、1997年、2013年と改修を重ね、地域の変化に合わせて描き直されてきました。

ミュール・デ・カニュ(Mur des Canuts)
住所:36 Boulevard des Canuts, 69004 Lyon
最寄り:メトロC線「Hénon」駅
制作:CitéCréation(1987年制作、1997・2013年改修、1,200㎡)
豆知識:クロワ・ルースの歴史そのものは、[クロワ・ルース完全ガイド]で詳しく紹介しています。

③ ビブリオテック・ド・ラ・シテ——本の姿をした図書館

「本の街」を自称するリヨンらしい一枚が、こちらの「ビブリオテック・ド・ラ・シテ(別名ミュール・デ・ゼクリヴァン=作家の壁)」です。建物6階分の壁に、リヨンおよびオーヴェルニュ=ローヌ=アルプ地域圏にゆかりのある数百人の作家の名前と作品が、書棚に並ぶ本の背表紙や開かれたページの形で描かれています。『星の王子さま』のサン=テグジュペリや、探偵小説「サン=アントニオ」シリーズのフレデリック・ダールなど、フランス文学史に名を残す作家たちの姿も。1階部分は実際の書店のようなだまし絵になっており、通りすがりに二度見してしまう完成度です。

ビブリオテック・ド・ラ・シテ(La Bibliothèque de la Cité)
住所:角地 rue de la Platière / quai de la Pêcherie, 69001 Lyon
最寄り:メトロA・C線「Hôtel de Ville」駅
制作:CitéCréation(1998年、400㎡)

④ クール・デ・ロージュ——上がる緞帳のだまし絵

クール・デ・ロージュの壁に描かれた、舞台の緞帳が上がる瞬間のだまし絵
写真:offbeatfrance.com

ヴィユー・リヨンの一角、高級ホテル「クール・デ・ロージュ」の壁に描かれているのが、劇場の舞台裏を思わせるこの作品です。足場や舞台セットの転換シーンをだまし絵で表現し、緞帳(どんちょう)が上がってホテルの内部が現れる——という劇的な演出になっています。実は壁に直接描かれたのではなく、防水性のキャンバス地に描かれて壁に張られているという珍しい手法で、1988年に「ミュラール(Mur'Art)」社によって制作されました。

クール・デ・ロージュの壁画
住所:3 place Ennemond Fousseret / 26 quai de Bondy, 69005 Lyon
最寄り:メトロA・D線「Vieux Lyon」駅
制作:Mur'Art(1988年、400㎡・防水キャンバス地)
周辺:ヴィユー・リヨンの街歩きと合わせてどうぞ。詳細は[ヴィユー・リヨン完全ガイド]で紹介しています。

⑤ ミュール・デュ・シネマ——映画発祥の地への敬意

ミュール・デュ・シネマ——映画館の入り口とリュミエール兄弟を描いたフレスコ画
写真:Jeanne Menjoulet(CC BY 2.0)/offbeatfrance.com

リヨンは映画を発明したリュミエール兄弟の故郷。その歴史へのオマージュとして描かれたのが「ミュール・デュ・シネマ(映画の壁)」です。上部には撮影現場のセット、下部には史上初の映画作品「工場の出口」の一場面とリュミエール兄弟の姿、側面にはリヨンで撮影された映画のポスターが並び、まるで昔ながらの映画館の正面を再現したかのような一枚に仕上がっています。

ミュール・デュ・シネマ(Le Mur du Cinéma)
住所:18 Cours Gambetta, 69007 Lyon
最寄り:メトロD線「Guillotière」または「Saxe-Gambetta」駅
制作:CitéCréation(1996年、500㎡)
豆知識:リュミエール兄弟ゆかりのアンスティチュ・リュミエールについては[リヨンの美術館・博物館ガイド]でも紹介しています。

⑥ エスパス・ディエゴ・リヴェラ——メキシコの巨匠へのオマージュ

エスパス・ディエゴ・リヴェラ——メキシコの歴史を描いた鮮やかなフレスコ画
写真:offbeatfrance.com

ジェルラン地区の広場を囲む建物群に描かれた、色彩豊かな一連のフレスコ画です。「大型壁画の父」と呼ばれるメキシコの画家ディエゴ・リベラ(CitéCréationの創設メンバーたちが着想を得た人物でもあります)へのオマージュとして、アステカ・マヤ文明からスペインによる征服、先住民の受難、そして現代メキシコの社会運動までの歴史が描かれています。リベラの没後50年にあたる2007年12月4日、リベラ財団と娘グアダルーペ氏の協力のもと完成しました。

エスパス・ディエゴ・リヴェラ(Espace Diego Rivera)
住所:rue Georges Gouy, 69007 Lyon(ジェルラン地区)
最寄り:メトロB線「Debourg」または「Jean Macé」駅
制作:CitéCréation(2007年、450㎡)

その他にも見逃せないフレスコ画

6作品以外にも、リヨンには個性豊かなフレスコ画が点在しています。時間に余裕があれば、ぜひ足を延ばしてみてください。

  • ラ・ポルト・ド・ラ・ソワ(La Porte de la Soie):クロワ・ルースのクロ・ジューヴ地区にあるHLM(公営住宅)の壁に描かれた、シルクロード3000年の歴史。ユネスコの表彰も受けた作品です(4 rue Carquillat, 69001)。
  • フレスク・リュミエール「2046年のリヨン」:未来都市リヨンを描いた350㎡のフレスコ画で、4kmの光ファイバーと95個のLEDが日没から深夜まで壁を光らせる、世界初の試み(106 avenue Jean Jaurès, 69007)。
  • サンク・ユー・ムッシュー・ポール(Thank You Monsieur Paul):レ・アール・ド・リヨン・ポール・ボキューズの向かいに描かれた、名シェフ ポール・ボキューズへのオマージュ。2015年、ボキューズの三ツ星獲得50周年を記念して制作され、夜になると壁に映像が投影される10分間の光のショーが上映されます。
  • ミュゼ・ユルバン・トニー・ガルニエ(Musée urbain Tony Garnier):8区エタ=ジュニ地区の公営住宅群の壁に描かれた、建築家トニー・ガルニエの「理想都市」構想をテーマにした約25〜30枚のフレスコ画。コート・ジボワール、エジプト、インド、ロシア、アメリカなど世界各地のアーティストが手がけた「世界の理想都市」シリーズも含まれ、無料で通年見学できます。

フレスコ画めぐりのヒント

  • 無料で、いつでも見学できます。すべて公共の場所(建物の外壁)にあるので、開館時間を気にする必要はありません。
  • エリアごとにまとめて回るのが効率的:①②③④はヴィユー・リヨン〜プレスキル〜クロワ・ルースの徒歩圏内、⑤⑥はジェルラン地区にまとまっています。
  • リヨン観光局は有料のガイドツアーも用意:クロワ・ルースの坂道ストリートアート散策(約13ユーロ)、エタ=ジュニ地区の自己ガイド散策(約8.50ユーロ)など。リヨン・シティカード提示で割引が受けられる場合もあります。
  • 少し離れて全体を見る:トロンプルイユは近づきすぎると「絵」だとバレてしまいます。まずは道の反対側まで下がって、建物全体を見渡してみてください。
  • フレスク・リュミエールなど、夜に化ける作品も:昼と夜、両方の表情を持つフレスコ画もあるので、時間帯を変えて再訪するのも一興です。

よくある質問

トロンプルイユとは何ですか?

フランス語で「目をだます」という意味の美術技法で、遠近法や陰影を駆使して、平らな壁面に実在する建築物や人物がいるかのような立体的な錯覚を生み出します。

リヨンには全部で何枚のフレスコ画がありますか?

正確な数は変動しますが、約200枚のフレスコ画・壁画があるとされています。CitéCréationだけでも世界で650以上の作品を手がけています。

CitéCréationとは何ですか?

1978年に美術学校の学生たちが結成したグループを母体に、1983年に発足した壁画制作の協同組合(SCOP)です。住民との対話を通じて地域の記憶をテーマ化する手法で知られ、現在は世界40カ国以上で活動する、この分野の世界的リーダーです。

フレスコ画を見るのにおすすめの季節はありますか?

屋外の壁画なので基本的に一年中見学できますが、日照時間が長く空が明るい春〜秋がもっとも写真映えします。フレスク・リュミエールのような夜間照明つきの作品は、日没後の時間帯もおすすめです。

まとめ

リヨンの壁は、ただの壁ではありません。ソーヌ川沿いの偉人たちの肖像から、クロワ・ルースの街並み、メキシコの歴史絵巻まで、一枚一枚に物語が込められています。

  • アクセス:多くがヴィユー・リヨン〜プレスキル〜クロワ・ルースの徒歩圏内
  • 外せない2点:フレスク・デ・リヨネ、ミュール・デ・カニュ
  • 料金:すべて無料、屋外でいつでも見学可能

観光地図には載らない「もう一つのリヨン」を、ぜひ壁画めぐりで発見してください。

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参考・公式情報

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